
お寺を訪れ、美しい仏像を前にした時。
「あそこに仏像が”一体”いらっしゃるね」 「こちらの仏様は”一尊”と数えるのか…」
そんな仏像の数え方に、ふと疑問を感じた経験はないでしょうか。
なぜ、仏像には「体」(たい)「尊」(そん)「軀」(く)など、様々な数え方が存在します。
実はその使い分けには、単なる日本語のルールの枠を超えた、仏教世界の奥深い意味が隠されています。
この記事では、それぞれの数え方の意味と使い方を分かりやすく解説します。
それだけではありません。数え方の違いから見えてくる、仏像の”格”の違いという、一歩踏み込んだ視点までお伝えします。
お寺めぐりの中で感動した具体的な体験も交えながらお伝えします。
この記事を読み終えたなら、仏像を見る目ががらりと変わるはずです。 一体一体の仏像が持つ「役割」や「位」を感じられるようになり、お寺を訪れる楽しみが何倍にも深まるでしょう。
▼この記事でわかること
- 仏像の数え方「体」「尊」「軀」の明確な違い
- 数え方から読み解く、仏像の”格”や役割
- お寺めぐりで恥をかかない、正しい言葉の使い分け
- 仏像鑑賞がもっと知的で面白くなる新しい視点
目次
仏像の数え方、なぜ色々あるの?
ここでは、難しいことは一度わきに置いて、クイズを解くような気持ちで読み進めてみてください。
仏像の数え方が複数あるのは、日本語の豊かさの表れでもあります。 そして何より、仏像が単なる「モノ」ではなく、それぞれに役割や位を持った、敬うべき存在だと考えられてきたからです。
洋服を「一着」、鉛筆を「一本」と数えるように、対象への理解や敬意が、その数え方に自然と反映されているのです。 それでは、具体的にそれぞれの言葉の意味を見ていきましょう。
「体」「尊」「軀」それぞれの意味と使われ方
仏像の数え方は、主にこの3つが基本です。 それぞれのニュアンスを掴むだけで、ぐっと理解が深まります。
もっとも身近な「体(たい)」
「一体、二体(いったい、にたい)」と数える「体」は、最も一般的で、皆さんも一番よく使う数え方ではないでしょうか。
これは、人の形をしたものを数える時の基本です。 仏像全般に使って間違いのない、オールマイティーな数え方だと覚えておきましょう。
敬意を込めた「尊(そん)」
「一尊、二尊(いっそん、にそん)」と数える「尊」は、より強い敬意を表す言葉です。
特に、信仰の中心となるご本尊など、重要な仏像に対して使われることが多くあります。
「尊い」という言葉があるように、ひときわ大切にされている仏様だと感じた時には、「尊」を使うと、その気持ちが表現できます。
少し特殊な「軀(く)」
「一軀、二軀(いっく、にく)」と数える「軀」。この漢字は「からだ」を意味します。
主に、彫刻作品として仏像を捉える時に使われることが多い言葉です。 美術館の解説や、美術史の専門書などで見かけることがあります。
芸術品としての側面に光を当てた、少し専門的な数え方です。
数え方でわかる仏像の”格”の違いとは
ここからが、この記事の核心です。 「体」と「尊」の使い分けには、実は仏像の”格”が関係しています。
仏教の世界には、役割に応じた位、いわば”序列”が存在します。 大きく分けると、以下の4つのグループになります。
- 如来(にょらい): 最高の位。悟りを開いた存在。(例:お釈迦様、阿弥陀様)
- 菩薩(ぼさつ): 如来になるために修行中の存在。(例:観音様)
- 明王(みょうおう): 恐ろしい顔で人々を導く存在。(例:お不動様)
- 天部(てんぶ): 仏教世界を守る神々。(例:四天王、阿修羅)
この中で、最高の”格”を持つ「如来」に対しては、「尊」を使うのが最もふさわしいとされています。
そして、それ以外の菩薩、明王、天部などに対しては、一般的に「体」が使われます。
もちろん、これは厳密なルールではありません。菩薩でもご本尊であれば「一尊」と数えることもあります。
しかし、この基本を知っているだけで、お寺で仏像を見た時に「このお方は如来だから、特に尊い存在なのだな」と、その世界の構造を少しだけ深く理解できるのです。
【私の体験談】数え方を知って変わった、奈良・興福寺での感動
興福寺の国宝館は特にお気に入りの場所です。
有名な阿修羅像をはじめ、たくさんの天部や菩薩の仏像が、「一体、また一体」と力強く立っています。
以前の私は、その美しさや迫力にただ圧倒されるだけでした。 しかし、この数え方の意味を知ってから、鑑賞の仕方が全く変わったのです。
ずらりと並ぶ仏像たちを見た後、最後に中央に安置されているご本尊の千手観音菩薩像の前に立つ。 「このお方こそが、この場所で最も敬われるべき”一尊”なのだ」
そう意識するだけで、それまでバラバラに見えていた仏像たちの間に、一つの秩序だった世界観が立ち現れてくるような感覚になりました。
阿修羅像たちは、この中央の”一尊”を守るために存在している。
そう思うと、一体一体の表情やポーズに込められた意味が、前よりもずっと深く、ドラマチックに感じられたのです。
それは、知識が感動を何倍にも増幅させてくれた、忘れられない体験でした。
まとめ:仏像の数え方「体」「尊」「軀」でわかる、仏像の”格”の違い
この記事のポイントを、最後にもう一度まとめます。
- 仏像の数え方には「体」「尊」「軀」などがあり、それぞれニュアンスが異なります。
- 「尊」は最高の位である「如来」に、「体」はそれ以外の仏像に使うのが基本です。
- この使い分けを知ることで、仏像の持つ”格”や役割を理解できます。
仏像の数え方。 それは、単なる日本語のルールではありません。
仏像一体一体に込められた意味を理解し、敬意を払ってきた、昔の人々の心のあらわれです。
次に皆さんがお寺を訪れる際は、ぜひその数え方を少しだけ意識してみてください。
目の前の仏像が、これまでとは違う、より深い物語をきっと語りかけてくれることでしょう。